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はじめに
道徳の授業は、「~しましょう」「~はよくない」といった当たり前の一般論を言い合う場ではありません。登場人物の行動を「どうしてそのような行動を取ったのか」「どうすればよかったのか」とただ評価するだけでなく、「なぜそうできなかったのか」という葛藤や迷いにも目を向けることが大切です。
「~しましょう」と行動を促すのは学級活動の学習、「心情を読み取る」ことは国語の学習で扱います。道徳の学習では、模範的な行動を取れたときの「心のスッキリ感」や、「やった方がいいとわかっているのに、なぜできないのか」「ダメだとわかっているのに、なぜやってしまうのか」といった“心の揺れ”に注目し、児童自身の生き方や価値観に関わる深い対話を促すことが求められます。
以下に示す授業展開例が、あなたの道徳の授業づくりの一助になれば幸いです。
題材「一りん車」
指導内容:C・規則の尊重
ねらい:
みんなで使う物を「自分さえよければ」という使い方をしてしまうと、他の人が嫌な気持ちになったり、使いにくくなったりすることに気づく。ルールを守ることの意味を理解し、みんなで使う物を大切にしようとする判断力と態度を育てる。
授業の展開例
① 登場人物とあらすじの紹介
「登場人物は、小学生のひでくんとまさきくんです。2人は一りん車に乗るのが大好き。しかし、一りん車は人気があり、早く取りに行かないと他の人に使われてしまいます。そんな2人は、ある作戦を思いつきます。」
② 教科書を読む
・登場人物のセリフや行動に注目しながら、音読します。
③ 登場人物の気持ちを考える
(1)一りん車で遊んでいるときの2人の気持ち
→「楽しいな」「取られなくてよかった」
(2)体育倉庫の裏に一りん車を隠しているときの気持ち
→「これで昼休みも遊べるぞ」「バレなきゃいいな」
(3)先生に注意されたときの気持ち
→「いけないことをしたな」「もうやめようかな」「ちょっとドキドキした」
※状況によっては、「でも明日も隠せば遊べるかも」といった気持ちも出てくるかもしれません。
④ 自分自身のことを考える
(1)「一りん車」のように、みんなで使う物を挙げる
→ボール、遊具、図書室の本、トイレ、クロームブックなど
(2)それらを使うときにどんなルール・約束があるか
→順番を守る、使ったら戻す、きれいに使う、譲り合う
(3)きまりを守って気持ちよく使えた経験を話し合う
→「図書室の本を最後まできれいに読んで返したら、次の人が『ありがとう』と言ってくれた」など
⑤ 思考を揺さぶる問いかけ
問い:「先生の話を聞いた2人は、一りん車を隠すのを本当にやめるでしょうか?」
→「自分がどうするか」ではなく、「2人がどうすると思うか」と問うことで、児童が本音で考えられるようにします。
【やめると思う】
- 理由1:きまりは守らなければいけないから
- 理由2:他の人が嫌な思いをするから
- 理由3:先生に怒られたから
- 理由4:ちょっとズルをしても楽しくなくなるから
【やめないと思う】
- 理由1:いけないとわかっていても、どうしても遊びたいから
- 理由2:他の人もやっているかもしれないから
- 理由3:注意されたけど、バレなければまたできると思っているから
補足の揺さぶり:「もし2人が明日も一りん車を隠したら、どんな気持ちで遊ぶだろう?」
→「ズルをして遊んでも、心のどこかでモヤモヤしてしまう」「楽しいけど、スッキリしないかもしれない」
⑥ まとめ(価値の自覚)
・みんなで使うものは、自分も他の人も気持ちよく使えるようにすることが大切です。
・ズルをすれば一時は楽しいかもしれないけれど、誰かが嫌な気持ちになるかもしれません。
・本当の楽しさは、「みんなが気持ちよく使える」中にあることに気づかせます。
・道徳的価値に気づいたあとに、「これからどうしたいか」について一人ひとりが考え、発表する時間を設けましょう。
おわりに
この授業を通して、児童が「正しさ」だけでなく、「揺れる気持ち」や「自分の行動を見つめ直す視点」に出会えることを願っています。指導者の問いかけ一つで、道徳の授業は一人ひとりの心に深く届く学びの時間になります。
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